500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

さらさらと死ぬ。

リン酸系アルミニウム属の人間が臨終を迎えるにあたって、細胞分裂の家族から伝統の儀式を依頼された。私は60年ぶりの引導師を務める。儀式は夜通し4日間に渡る。その間臨終を迎える者が正しい化学反応を示せるよう、私はその正確な過程を耳打ちし続けなければならない。これはチベット死者の書からの流れを汲む5080年代の死の迎え方である。人間の物質構成は予言通りの核戦争で変異した。リン酸系アルミニウム属人間は他の物質人間に比べて、連鎖が簡単に不安定化する。結果、粉じん爆発を誘発してしまうことがある。他の形態をとる人間にとってそれはありがたくないことだった。私は彼が安心できるよう務めた。無事に引導を渡し臨終の彼が最終生成物となりグランドキャニオン渓谷にたどり着くまでやり遂げなければならない。彼は死を迎える不安から様々に変容していく。自分の願望や思い出を自身の体で私に見せる。オイルの虹のようなスライム化した彼は細かな泡を立てて白く発泡しはじめる。全体が発泡スチロール状になり、西からの海風に微塵になって彼は散って行く。4日間の臨終化学反応は成功し彼の死を私は見届けた。残された家族に伝えれば私の役目は終わる。