500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

静かの海より。

384,400キロメートルの距離を地球と月は見えない力の作用でつながりあっている。太陽系の重力が変化し月が地球を離れ遠ざかり、月を持たない地球になった頃には夜空は光る者のない、ただのテレビ画面になるのだろう。火星も木星も明星も遠ざかる。鏡像的世界のラグランジュポイントで椅子に掛けながら、私は月にいる彼女に電話する。彼女はラグランジュポイントの私を見つけられないのに見つけたふりをして電話を続ける。独り月にいるのは気楽でいいと彼女は話す。朽ちていく地球を目の前に、地球の重力に支配されて一生を送る人達の行いを干渉せずに千年、見続けてきた。「次の人、決まった?」「どこも人材不足でね」「後千年やってもいいけど、暇だし」と彼女は爪を気にしながら話す。「テレビがつまらなくて困ってるの、電波は宇宙中に広がっているのに」 「聞くのは聞ける奴だけだから、問題ない。宇宙人だって色々だ」「リクエスト番組も探検番組もなくなって楽しみが減ったわ」とこぼす。「貴方の所にテレビはあるの?」「ないよ、見ないから」「ホント、世捨て人みたい」「たまに本部に行ってるから世捨て人じゃないよ」彼女との電話はそれから千年続いた。