500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

渡良瀬のノスリ。

ノスリが上空から獲物を狙っているのを、柏木はカメラを向けて追った。見晴らしのよい渡良瀬の土手に三脚を構える。一帯は枯れた葭原が広がる。葭原は時にさわさわと乾いた音を立てて風を通していく。ヨシキリもいるに違いない。柏木は風に背を向けてカメラを守る。風に乗るノスリは遮る物のない一面の空にあって自由だ。地表に増殖する建造物の世界を、神の一部であり先端のノスリはどう観ているのか。クリスチャンの柏木はそんなことを思いながら、じっとノスリを追う。そこへ、急にノスリよりも大型のハシブトガラスが現れノスリに襲いかかる。カメラの先の空中戦はしばらく続いた。両者は旋回しながら戦っている。劣勢のノスリがカラスが離れた隙をついて水辺へと逃げた。カラスは後を追わず、空を占領している。カラスが去ると再び縄張りにノスリが戻ってくる。ノスリは色彩がつなぎ合わされた下界を見下ろしながら、西に延々と連なる山向こうから何かがやってくるのを見た。ノスリ以外に誰も目撃していない。草むらから出たかやねずみを追ってノスリは急降下していく。かやねずみはノスリに捕まり空へ運ばれる。柏木はノスリとかやねずみを撮ると空を仰いで神を思った。