500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

黒門を入る。

奈良時代にその門はそこに現れた。2層造りの屋根のかかった黒門である。門には扉も付けられその表面は鉄の板で覆われていた。門に使われている柱は円筒形をなし、ひと抱えするほどに堅牢なものだった。門には刀傷や銃撃された痕も見受けられた。奈良時代は寺院の入り口とされた黒門は荘園の門になり、時代を下ると武家屋敷の門にまた軍人の屋敷の門となった。そして戦禍においても焼け残り現在に至る。私と家内は今日、月命日で来た。途中花と菓子と蝋燭と酒を求める。黒門は前日の雨のせいで黒々と立っていた。鉄の扉は開いていたが表面は露を帯びている。見上げるとヒラヒラと何かが揺れていた。「何かしらね、あれは」家内が不思議そうに私に聞いてきた。見ると組まれている木と木の隅に白っぽい紐のような、紐よりも薄く平たいものがかかって揺れている。私は胸元のポケットから双眼鏡を出した。私は野鳥の観察をよくしていた。双眼鏡の中に映る物は私を困惑させる。「何だろうなぁ、布切れにも見えるが」しばらく私は観察し続けた。平たい紐が裏返った時、私は答えを知った。「あれは蛇の抜け殻だよ」と家内に伝えると「蛇の抜け殻なんて初めて見たわ」と驚いて言った。