500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

オアシスの言い伝え。

「その水は飲んではいけないんですよ」ヨーゼフは観光客のアリに話しかけた。目の前のオアシスから湧き出る透明で涼やかな湧き水を、今にもアリが口にしそうだったからだ。アリは「どうしてですか、こんなに綺麗なんですから飲めるのでは?」とヨーゼフが止めるの…

9804年地球。

ダヴィンチ・13という名の地衣類が緩やかな起伏が続く視界一面を覆っている。9804年の地上には、ぽつぽつと200メートル級の低山が存在していた。皆、独立峰に見えるがそれらは原子力発電所が幾重にも地層で覆われた山である。この地下に稼働を止めた原子炉が…

空き部屋。

林立するタワーマンションの隙間を夕日が降りていく。60棟はあるだろう。張り巡らされた路面電車のLEDライトが軌道を行き交う。車体は小豆色と焦げ茶色の2色使いで窓枠はアルミ製の銀色が映える。建物の上層部には温室が作られていた。その温室から遠くない…

黒門を入る。

奈良時代にその門はそこに現れた。2層造りの屋根のかかった黒門である。門には扉も付けられその表面は鉄の板で覆われていた。門に使われている柱は円筒形をなし、ひと抱えするほどに堅牢なものだった。門には刀傷や銃撃された痕も見受けられた。奈良時代は…

3人しりとり。

阿からしりとりが始まった。路面電車の最後尾で土田はしりとりを始めた。「アイス」隣の中村が参考書から顔を上げて「酢飯、し」と続く。窓際の山根は「酢飯ってなかなか」と驚きながら「渋谷公会堂裏、ら」と言った。「裏ってあるのか?」土田が疑問を挟んだが続く。土…

アンモナイトの枕。

アンモナイトの化石は化石の好きな人にはいつも人気がある。私も特別に大切にしている。大理石の壁を丹念に観てみると運良く尖ったアスパラガスのような模様や渦巻き模様を発見することがある。それは化石だ。私はヒマラヤ山脈の高所にアンモナイトやその他…

那珂川の釣り人。

早朝の那珂川に小雨が降っている。広い河原の細かな石を踏み川に近づいていく。那珂川は橋が多いが川幅が広く川としてとても美しい。菅笠と胴長とつり道具を手にがさがさと行く。私に気づいた鴨らが鳴いて飛び去った。川は少し濁りがあった。まだ冷水病の話…

環太平洋造山帯。

環太平洋造山帯の火山活動が20xx年頃から活発化した。温暖化の影響で、海水温と地表面との温度差や、極地と赤道付近の海水の流れが今までと異なってきた。地球を巡る海流の、大きな流れを失いつつあった。寒暖の海流が滞れば、海に不毛の領域が増加する。海…

由比ヶ浜。

由比ヶ浜を1月の北風が通り過ぎて行く。波は灰色のくり返しで細かに立つ波頭が刹那に凍りそうな寒さだった。まるでスノードームに由比ヶ浜だけが唯一存在しているかの如く、360度見える遠景は張りぼてのように薄っぺらい。多分に空が曇り光源が足りないせい…

雨木の幽霊。

昔々有る所に人の知らない滝が在りました。滝は約千丈程の高さから白々と落ちています。そこへ道に迷った浪人が1人。浪人は尾張に行く所でしたが道を誤ったようです。細く雨が降り出し浪人は木の根元で休むことにしました。朝、霧で辺りが分かりません。 「…

弘前にて。

私が好きな彼女は、青森の弘前で林檎農家の跡取りだった。私は弘前駅からバスに乗り、弘前公園から御山を見る。特に夕日に染まりながら色を消していく御山は神々しい気がする。岩木山の麓には日当たりのいい林檎畑が広がっていた。彼女は幼い頃からあの御山…

孫娘は宇宙飛行士になるだろ。

新月の夕暮れから空を見続けることは今の時代、カメラ任せになってしまうのかもしれない。北極星を中心に輪を描くように夜の星は皆一夜の間に動く。それは膨大な数の星の軌道を現す縞模様だ。孫娘はいくつ星座を見つけられるだろうか。星座は確か小学生の時…

ロバに乗る世界。

2044年1月、温暖化対策の抜本的な改革として車の代わりにロバに乗るという制度が施行された。自動車業界はロバ生産業界へと変貌を遂げる。外国から良好種を輸入し良質な自国種の量的生産を担った。全国民が小学生になると1人に1頭ロバが支給される。ロバ…