500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

那珂川の釣り人。

早朝の那珂川に小雨が降っている。広い河原の細かな石を踏み川に近づいていく。那珂川は橋が多いが川幅が広く川としてとても美しい。菅笠と胴長とつり道具を手にがさがさと行く。私に気づいた鴨らが鳴いて飛び去った。川は少し濁りがあった。まだ冷水病の話は聞いていないので今日、日がな一日釣りをしに来た。まだ自分の他に釣り人は見ていない。シーズンになるとあそこでもここでもとにわかに釣り竿が賑やかになる。国道が通る橋から那珂川に目をやると、川の両側から釣り竿が並木道を作るように川を挟んでいる。鮎のシーズンだ。 釣り竿を振り糸を川へと流して様子を見る。これを延々と一日中やっている。時折場所を変えてみるがやることは変わらない。水はだいたい冷ややかだ。家内を1度連れてきたことがあるが、それきりついては来なくなった。家内は釣りに向かないタイプだった。20代から釣り人となり50年近く続いている。川中に立ち続け、ひたすら待つ。釣り竿が撓り、銀色の魚が空中を私の方へと飛んでくる一瞬を待つ。その瞬間とその後の網で魚が泳ぐのを見る時、私は心躍らせる。釣り人なら、分かってくれるだろう。シュッと音を立て1番目の魚が飛んでくる。