500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

オアシスの言い伝え。

「その水は飲んではいけないんですよ」ヨーゼフは観光客のアリに話しかけた。目の前のオアシスから湧き出る透明で涼やかな湧き水を、今にもアリが口にしそうだったからだ。アリは「どうしてですか、こんなに綺麗なんですから飲めるのでは?」とヨーゼフが止めるのを不思議がる。それは街が出来る前からずっとあるオアシスだった。白昼の広場は蒸し暑い。ヨーゼフはアリに「店に入ってからお話しします。ここは暑いので」と2人で煉瓦作りの建物に入った。「なぜ私が貴方にあの水を飲むなと言ったのかですが、ここの住人は昔から皆あの湧き水は飲まないんですよ。水はここから100キロ離れた浄水場から送られてきます。その水を飲むんです」「あの水を飲まないのはどうしてですか」アリはグラスに満たされた水を口にした。「この水は浄水場の水」「そうです」ヨーゼフは煙草に火を着ける。「私が、子供時分にひい婆さんから聞いた話ですがね、この街の地下深くに紀元前の原子炉が埋まっているって言い伝えがありましてね。1度偉い学者が来て発掘調査をしたそうですよ、何が出たのかは分かりませんが今でも、役人も飲みませんよあの湧き水はね」ヨーゼフは煙草をもみ消した。