500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

9804年地球。

ダヴィンチ・13という名の地衣類が緩やかな起伏が続く視界一面を覆っている。9804年の地上には、ぽつぽつと200メートル級の低山が存在していた。皆、独立峰に見えるがそれらは原子力発電所が幾重にも地層で覆われた山である。この地下に稼働を止めた原子炉が存在していた。辺りに人間らしき生物は見当たらない。もともと海岸だった場所は海岸線が後退し海は遙か彼方に遠のいていた。放射能半減期は過ぎたが動くものといえばダヴィンチ・13の先端のみ。生態系はガラリと変化し、約2500年前に地球上で6回目の絶滅イベントがあったようだ。人類は絶滅してしまった。あれほど多種多様な生態系や地上の地形も、今は大陸の沈下や山脈の消失などでまるで変わっている。地上に偶然残された原子力発電所の山だけが人類のいた証明になっていた。プルトニウムは地下に眠っている。放射性廃棄物の最終形態が時々地表へと一部出てきたり、海面を漂っている。海の色は暗い。海の中はどうなっているのか分からない。また始めからのやり直しになった。多様な生命は海の底からやってくるか或いは宇宙から降り注がれるまで、しばらく世界は風と地衣類と小さな海だけになった。