500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

弘前にて。

私が好きな彼女は、青森の弘前で林檎農家の跡取りだった。私は弘前駅からバスに乗り、弘前公園から御山を見る。特に夕日に染まりながら色を消していく御山は神々しい気がする。岩木山の麓には日当たりのいい林檎畑が広がっていた。彼女は幼い頃からあの御山を背に林檎作りを手伝い成長した。林檎の花が白く咲き出す頃訪ねると、彼女は高校を卒業していた。10年ぶりの再会になる。彼女は私を仄かに覚えているようないないような礼儀正しさで私を迎えた。今では父親から頼りにされているようだ。10年前私が初めて来た時と林檎畑は変わっていなかったけれど人間はそれぞれに歳を重ねていた。前回と同じように林檎畑の仕事を手伝いながら取材する。無農薬栽培や有機栽培が世間で取り上げられるようになり、以前から有機栽培に取り組んでいる彼女の家を訪ねたのだった。岩木山の麓の温泉も紹介されて取材する。それから度々弘前を訪れ林檎畑の林檎を撮影した。彼女は丁寧にひとつひとつ扱う。林檎畑の地面が銀色のシートで覆われると遠くからでもキラキラして、収穫の日が近づいているとワクワクしたものだった。色づく林檎を彼女が籠へ山盛りに収穫した時は私も幸福になった。