500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

雨木の幽霊。

昔々有る所に人の知らない滝が在りました。滝は約千丈程の高さから白々と落ちています。そこへ道に迷った浪人が1人。浪人は尾張に行く所でしたが道を誤ったようです。細く雨が降り出し浪人は木の根元で休むことにしました。朝、霧で辺りが分かりません。 「これは参ったな」浪人が途方に暮れていると霧の中から何かが向かって来ます。それは戦に向かう一軍でした。「こんな所でおぬしは何しておるか」言問うので「道に迷いまして」「大将、この者は迷い人で御座る」と足軽の大声が、一閃、霧を突きぬけ霧が晴れ渡りました。甲冑の軍勢が姿を現します。「村近くまで送ってやろう」再び雨が降って来ました。浪人を連れた軍勢は甲冑を鳴らし進んでいきます。浪人は橋のたもとで下ろされました。「あの村で道を聞くと良い。わしらは先を急ぐのでここまでだ」「あなた様方はどちらへ戦に行かれるのか」浪人は気になり聞くと「これから津へ向かう所だ」と軍勢は山へ入って行きました。見送った浪人が、村でこの出来事を話すと「昔戦に向かう軍勢が山津波に遭ったそうでその方々でしょう」「津に向かうと」「さあ、わしらには分からないあの世の話ですから」と村人はお茶を勧めた。