500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

山茶花の頃のこと。

山茶花の咲く頃になると思い出されるのは、妻の姪のことである。今は米国に移住し何年にもなるが、姪は妻と双子のように面差しや声が似ており、会えばふとした時に亡き妻に会っているような錯覚を覚えた。そんな姪と山茶花とがなぜ私の中で結ばれているのかと問えば、姪が長女を出産後久しぶりに帰国した季節がちょうどその頃だったからだ。自宅に妻、姪、姪の長女の3人の女性が集う。やはり姪の目元を引き継いでいるその子を眺めることの不思議さを、私は縁側で一人、遠巻きにしながら感じていた。それが、刻々と流れていく時間の中で生成される特別な何かであると考えながら。遠大な、地球の始まりから続く流れの中の、ほんの一瞬ではありながら、それでいて欠けてはいけない何か。それを私は縁側のガラス越しに目撃していた。妻と姪と姪の子のたわいないやりとりの日常で山茶花の頃は過ぎていった。やがて、妻が亡くなり私は一人暮らしとなり、姪は折に触れ写真付きのハガキを送っては長女の成長を見せてくれた。長女は確かに姪の子であるからだんだんと姪に似てくる。私はハガキの長女に、私の知らない妻の幼少期を重ねながら、アルバムのページに大切に保管している。