500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

ある夜明け前のこと。小雪記念。

午前3時半の世界には割りたての黒曜石の空があった。原始の人は黒曜石で鏃を作り、狩りをし、皮を剥ぎ、生きのびた。集落の男達は日本海を危険と共に舟で南下しては大陸と交流していた。森林が深く、化学物質の汚染のない世界。縄文の日本は豊かだった。その空とこの空は、同じ空である。冬のはじまりの星座は、水を含んだように光っている。星座の生い立ちはその時代の天文学や文明と関係している。地球上のかつて存在した、あるいは存在している文化圏で、それぞれ独自の星座が作られた。今は失われた文明の数少ない証が空に残されている。地上では、キリトリ線の街灯が田舎道を延々となぞっている。闇に慣れてくると、うっすらと幾筋もの畦の境が浮かび上がる。遠方の屋根の繰り返しや白く塗られた壁が墨色の風景として現れる。新聞配達のライトが、何も動かない世界の中で生きている。やがて、東の筑波の山並みが赤い線を作り出し、山はますます陰影を濃くした。再び太陽は色彩を生みながら運行し、夜明けの世界は音量を上げていく。小柄な日本蜜蜂の、プラスチック薄片のような精密な羽を光らせ、冷えてこわばった諸々の表面を溶きながら、また1日が始まっていく。