500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

アキヲ。

アキヲは裏通りのスナックで夜明けを待っていた。ママは時折アキヲに声をかけてビールをつぐ。今日のビールはまるでアキヲを酔わせなかった。かえって目と頭が冴えて何をやっても上手くやれそうだった。黒いジャンパーの男が店に入ってくる。アキヲは手を上げた。「久しぶり」「家族は元気か」「家族はね、今海外旅行中」「海外行っちゃったか」「まぁね日本より楽しいからマカオとか」男はアキヲに500万の札束が入ったセカンドバックを渡す。「じゃあ渡したからね宜しくね」男はスナックから出て行った。アキヲはママに小遣いを渡すと店を出る。足は歓楽街のソープに向かった。早朝の川崎駅近くの路地はゴミを漁るカラス達が群がっている。そんな路地を抜けてアキヲは寂れた公営住宅のがたつくポストのひとつにセカンドバックを押し込むと、両手をポケットに入れ背中を丸めて消えた。誰もアキヲのことを見なかった。それからまだ人もまばらな警察署にアキヲは入っていく。しばらくしてアキヲは2件の殺人容疑で無期懲役となった。凶悪犯罪者が集められるSクラスの刑務所に収監された。アキヲは灰色の壁と鉄格子の間のわずかな空を見ながらこれから20年目の朝を迎える。