500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

深海散歩。

太平洋の真ん中あたり一人、大の字にプカプカ浮いている。やがて体は沈み始め、両手の隙間からは細かな気泡が海面に向かって伸びていく。海中から上空を望むとそれは魚類の視界になるのか。揺らぐ海面とその向こうの空と流れる雲が層になる。太陽光の加減で万華鏡のように果てしなく変化し続けるのを見ながら沈む。視界は深度が増す程に色彩が濃くなった。漂流する海草のコロニーやら回遊魚がいたが段々と生き物がいなくなった。深海に近づくと死んだプランクトンが雪のように深海へと降り積もる。沈んでいく全身に雪がまとわる。海は光が届かなくなり漆黒の世界になっていく。やがて海底に近くなるにつれ再び生き物が形を変えて現れた。体に色を持たない者や目が退化した者、骨を持たない者、硫化水素をエネルギーにする者等深海の奥底には様々な生き物がいる。目の前を死を迎える鯨が先に降りて行った。鯨は煙を立てて海底に着く。鯨目当ての者が現れ鯨は時間を掛けて骨になっていく。私は硫化水素が吹き出すチムニーが気に入って、それに群がる海老や蟹を頬杖しながら眺めていると海底山脈の噴火が起こり始める。海底の割れ目から吹き出すマグマが深海に生きた赤を産んだ。