500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

地獄の沙汰。

地獄の入り口にあたる井戸の蓋を取り、覗き込むと底は濁っており見えない。安藤斎は月明かりを頼りに井戸のふちを跨ぐ。目をこらし、ひと息吸うと飛び込んで行った。安藤斎は黒雲の中を落下し続ける。息もつけぬ間が続き声も出ない。視界が開けるといつも目印の、血の池地獄谷を探す。湯気を立て煮たっている血の池地獄谷は遠くからでも目立った。見つけると、すぐさま池に飛び込む。永遠に煮られている罪人たちが骨だらけの手で船幽霊の如く髪や躰を摑んでくる。安藤斎は慣れた様子で手を引き剝がす。罪人たちは皆非力だ。安藤斉は今日の用件を片づける為、道を急ぐ。牛頭も馬頭も他の鬼達も安藤斎の姿は見えない。安藤斎は飛ぶように走りながら最近地獄に落とされたある大名の男を捜す。男は鬼達に舌を抜かれているところだった。悲鳴を上げている。隠れる安藤斎が鶏の鳴き真似をするや否や鬼達は血相を変え、わっと散り散りに消えた。舌を抜かれはぐった男に「話せるかい」聞くと男は頷く。「それじゃあ此処に入ってくれるかい」と蛍籠を出し、安藤斎が手を叩くと男は蛍になり籠に入る。安藤斎は「上々だな」とニヤリと笑う。袖を振り大烏に姿を変えると黒雲の中へと消えた。