500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

茶壺。

骨董好きなお爺さんが、骨董店で茶壺を見つけた。主人はお爺さんが茶壺の前から動かないのを見て声をかけてくる。「かなりの年代物ですよ。いい品でしょう」「壺の中は見られるのかな?」「中ですか」主人は茶壺をゆっくりと動かしお爺さんは覗いた。「また来るよ」店を後にしたお爺さんはそれから度々、茶壺の事を考えた。ある夜、茶壺を抱きしめ舟に揺られている夢を見たせいで、ますます茶壺が気になった。お爺さんは10日目に再び店を訪れた。茶壺は同じ所に飾ってある。主人はお爺さんの事を覚えていた。「家までは運んでくれるのかな?」「お運びしますよ、吉日がよろしいかと」「じゃあ、そうしてくれるかい」お爺さんは茶壺を撫でると嬉しげに言った。それは室町時代の呂宋壺で海を渡ってやってきた茶壺だった。家に運ばれた日から茶壺はお爺さんから離れなかった。日中お爺さんは茶壺を大事そうに拭いては眺めている。茶壺を床の間に飾り、眠りにつくと、そのうち茶壺の中から波の音が流れ出しお爺さんを包む。お爺さんと茶壺は海を渡って南方の、茶壺が生まれた土地へとたどり着くまで毎晩、旅をした。道中、酒やご馳走が壺から出てくるのでお爺さんは大いに喜んだ。