500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

絵師の群青。

岩絵の具の群青を作る時、鉱石の藍銅鉱の粉末を使う。乳鉢に少量をとり乳棒にて丹念にすり潰していく。そこに溶いた膠を入れて再びすり合わせ群青になる。タカヨシはこの天井画を見上げると自分の身が点になったような気がした。伽藍の天井には、他では滅多に見ないような天文図が描かれていた。大抵、伽藍の天井には火除けの龍や天人が多いのに、この伽藍には天井一面に膨大な群青が費やされ、胡粉や金箔、銀箔で仕上げられた月と埋めつくす星が描かれていた。天井画を描いた絵師は千年前の人物かもしれず、会うことの不可能な絵師の作品をタカヨシは丁寧に模写していく。模写の大きさは、天井画と比べれば小さすぎる程だが、千年前も今も岩絵の具を作るやり方はそう変わらないとタカヨシは思っている。タカヨシは絵師の後をたどるように、藍銅鉱をすり潰しては絵師の、あの群青を探し始める。夕闇が四方から漂う時刻になると、まるで伽藍の屋根が外されたかのように天井画は生き生きと輝いていた。光源が傾きながら床で反射する塩梅が良いようだった。その効果も千年前の絵師は計算に入れていたのではないか、と伽藍で1日を過ごしたタカヨシは天井画を見上げながら考える。