500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

常磐ベーカリー。

常磐ベーカリーの朝は早い。日が昇る前から起き出しパン種の発酵具合を見る。ガスオーブンにスイッチを入れパン種を加工し年季の入った型に詰めて焼き始める。午前6時には最初のパンが焼きあがるあの香りが、パン工房からあふれ出て通りを漂っていく。朝早い人達は、焼きたてのパンの香りで1日の始まりの幸せを味わう。常磐ベーカリーは午前7時には開店し、焼き上がった商品から棚に並べていく。売る担当は大体ヨシさんで、パン焼きはご主人だ。丸眼鏡をかけたひょろりとしたご主人が工房を支配している。ヨシさんは店の前にのぼりを出してガラス窓を拭く。値札をそろえる頃には1番目のお客さんが入って来る。朝練の学生たちだ。常連さんだから店に入ると賑やかに騒ぐ。ヨシさんはそれぞれに声かけながら、学生たちにサービスしている牛乳を温める。買ってくれたパンに付けるのだ。このサービスはヨシさんの希望で開店当時から続いている。もう半世紀近い年月だ。だから常磐ベーカリーは小中高と学生たちに人気がある。この界隈で、ヨシさんとご主人を知らない子どもたちはそういない。時折ヨシさんは、子どもたちに食べてみたいパンはないかと聞いては新しいパンを作る。