500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

猫が来た。

ある日キジネコがわが家にやってきた。出産間近の風体の母猫は億劫そうに日向の隅に横になる。野良のようで私が近づくのを嫌がる素振りなので仕方なく私たちは遠くから時々様子を窺う。「今夜産むかも知れないね」と私が妻に言うと「寒くないかしら」と妻は天気予報を知りたがる。夫婦して猫好きだったが、幼少より生き物を飼った経験が2人とも無いから、猫を飼うという提案はどちらもしなかった。妻はネットで猫の自宅出産の検索をしている。あれから母猫は横になったままで時々顔を上げた。「安心できる環境を作ってあげましょうって書いてある」「我々を警戒してるからなぁ」とカーテンの隙間から母猫の様子を見る私に「なんだか怪しい人よ、今の」「猫にストレスを与えない為だ」「箱とか毛布とかいるみたいだけどどうする」「あの母猫が我々を敵じゃないと判ってくれたらやりようがあるんだが」私たちは1日中母猫の様子に気を揉みながら過ごす。私がグラウンドゴルフから帰ってくると妻が慌てていた。「産まれたのか!」「今さっき産まれちゃったのよ、なんだか感動しちゃった、私」と妻はまるで初孫誕生の如く興奮気味に話し続けた。無事に母猫は6匹の仔猫を産んだ。