500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

苺ジャムの話。

苺農家のナミさんが、出荷出来ない苺を黄色い箱に山盛り入れて台所に入って来た。「ジャム作ったことあるかい」とアサコさんに尋ねた事からジャム作りが始まった。午後1時の台所。よく洗った苺のヘタを取り除くため、ナミさんとアサコさんは並んで黙々とこしらえる。ナミさんはアサコさんが美人でおしゃべりじゃない所が気に入っている。時々こうしていきなり現れては2人して煮物をしたりあれやこれややってきた。アサコさんもナミさんのそば打ちを間近で見てからナミさんとの時間を大事にしている。2人は馬が合った。苺を細かく切り鍋に入れ砂糖を振りかける。慣れた手つきでナミさんは山盛りの苺をくつくつと煮始めた。苺が形を崩しながら、溶け出す砂糖と混ざり合っていく。細かな泡を立てる頃には台所中にあの特別な香りが満ちている。煮詰めるほどに苺ジャムは濃厚な真っ赤なジャムになっていく。鍋をかき混ぜ続けるアサコさんを監督しながらナミさんはお茶を飲む。やがて苺はナミさん自慢のジャムになった。熱々のジャムを2人はパンにつけてゆっくりと味わう。「うまいこといったな」とナミさんは言いアサコさんは写真を撮ってまたジャムをのせたパンに手を伸ばす。