500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

樫の木の100年。

造成されたニュータウンの公園にシンボルツリーとして樫の木が植えられた。あれから四半世紀が経ちニュータウンも変わった。樫の木の幹は大人の胴周り程になり遠くからでも目を引いた。ニュータウンが出来た当時移り住んできた若い家族たちも樫の木と同じ25年を過ごして来た。小林さん一家もそうである。一人息子のタカヨシは今では大学生になり都内で自炊生活を送る。時々帰ってくると両親を温泉に連れて行った。小林さんとナミコさんはニュータウンに程近いスーパーで働きながら日々を送っている。小林さん夫妻は必ず家に帰る時、樫の木の所に立ち寄る。ニュータウンの人たちにとって樫の木は特別な木だからだ。木は伐られなければ人間より遥かに生きる。タカヨシは以前、この樫の木に聴診器をあて他の子ども達と同じように聴いていた。小林さん夫妻もその時一緒に聴いているあの樫の木の音を2人は帰り道でよく話題にする。冬近くなると毎年ドングリを降らせる樫の木。2人の足元には今年のドングリが敷き詰められている。青みの残るドングリが夕焼けの残光にちらちら光る。植えられてから100年後、ニュータウンは既に無く跡地は森になっていた。樫の木は生きている。