500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

メリークリスマス。

クリスマスの聖歌隊なのだろうか、子ども達が歌の練習をくり返している。外国語の歌は12月の冷えた空気に似合っている。子ども達が放っている伸びやかな高音域の重なりは、空から大いなる存在の何者かを地上に呼びよせるような、例えばあの大天使ミカエルを簡単に降臨させてしまうだろう。そして聖歌を歌い始める。指導者と思われる女性が子ども達を噴水の側へと集めた。歌い出すと、人々は足を止めた。中には一緒に歌う人もある。ちょうど聖歌の半ばにさしかかると、空から無音の雪が降り始める。飾られたポールのイルミネーションが点灯して噴水の周囲がにぎやかになる。ビルの谷間の広場から子ども達の聖歌が流れて人々を噴水前に呼びよせる。そこへ身寄りのない男が一人立ち止まる。ポケットの中には、ナイフが入っている。むしゃくしゃしていた男はナイフを握って聖歌を聴いていた。1番が終わり2番が始まる。男の知っている歌詞が流れてきた。いぶせきうまやに 生まれし君こそ あがないきよむる 救い主なれ 今ぞ迎えん われらの君をば 聖歌は続く。男は酒が飲みたくなってナイフを握るのをやめた。悪い熱が下がったように男はバーに入って行った。