500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

駆け落ち。

大正末期、東北地方のある寒村から一人の少年が山梨の斑目家に奉公に入った。豪農で知られる斑目家の当主佐吉は小作人を多く抱えていた。奉公に入った弥平は14だった。弥平の他に10人程の奉公人がいた。父に似て体格がよく生まれ故郷では堤防工事に駆り出された。読み書きが出来ないことが弥平は辛かった。兄は寺子屋へ行ったが自分は力仕事ばかりさせられ、今では遠く山梨まで奉公に出されている。弥平は年季が開けたら都会に出ようと考えていた。そして10年が過ぎた。年季の開けた弥平は山梨から帝都へ向かう計画を立てていた。夜行列車の切符を手に入れ闇夜を身軽に駆けていく。途中、ある家の戸を叩いた。カヨという女が出てくる。弥平はカヨを連れだすと夜行列車に乗りこんだ。カヨは産まれた時から言葉の不自由な女だった。その為に養父母から辛くあたられ、村でも不憫な境遇で生きてきた。弥平は、時折見かけていたカヨをあの養父母から引き離してやろうと夜行列車に乗せたのだ。カヨは突然の出奔に戸惑っていた。酒乱の養父母から離れるなど、考えたことがなかったからだ。養父母は翌日カヨの失踪に怒り狂って村中を騒いだが、誰も弥平の謀とは分からなかった。