500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

75年の背骨。

脆くなった背骨が、屈む度にキクキクと音がするようでタミは体を動かすのが億劫になっている。畑仕事を50年続けて日に焼けた両手が寒さでかじかむようになってきた。その上背骨の不調である。冷え込みがキツくなると、痛みが走るようになっている。毎日坂の上の畑まで通っていたタミだったが、今では坂を上るのが堪える。そこで、畑仕事を休んで接骨院通いを始めた。「おはようさん」「おはよう」毎日1番に先生に会う。だるまストーブのある部屋で先生に体を預けながらタミは思うまま話す。先生は「そうだなぁ」など相槌を打ちながら手を動かす。タミの体は軽くなり血が通うのが自分でも分かるようになる。「先生、白菜いるかい?」「野菜は何でも好きだ」「うちの白菜上手いよ、先生にやるよ」「ありがとよ」そんな風でタミは野菜を持って来る。先生はお返しに饅頭やカステラを用意して二人して食べる。その内タミは他の村人が自分と同じようにやってもらう間、だるまストーブの前で話をしながら半日過ごすようになった。他の村人も集まりタミは野菜だけでなく久しぶりに作った甘酒やらきんぴらを振る舞う。だるまストーブの周りは今日もお茶と面々がそろい居心地がいい。