500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

行方も知れず。

ある男が一人、街道を行く。心の内に大きな思いを抱えひたすらに帝都を目指していた。 中山街道はその頃、冬を迎え人通りは疎らになっている。うら寂しい山道を越え宿場町に入るとぽつぽつと店の幟が出ている。大分に人の影が多くなる。男は小さな宿で足を洗いながら女将に尋ねた。「唐衛門という人はいるかい」「さあ知りませんねぇ」女将は天井を見上げて言い、男を部屋へと案内した。男は刀を取り出すと手入れを始める。それは、ある銘を持った家宝の品である。丹念に手入れした後、刀の曇りを観る。男はあることを刀に問うた。部屋はしんと静まり、刀と男だけである。外の通りを唐辛子売りが歩いて行った。行く宿場ごとに唐衛門を尋ねたが見つからない。男は焦りを感じながら帝都に入った。とある薬問屋に男は入りそのまま出てこない。男「唐衛門は見つかりませんでした。如何致しますか」「唐衛門は捨て置け、文明開化の病に取り憑かれた男だ。それよりも大事な事がある。お前に切って貰いたい者がいる」主は男を上座に上げる。そして男は消えた。年が明けて18日暮れ。ある政財界の要人が暗殺される。この要人が殺害されたことで帝都の再開発事業は大きく変更された。