500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

民俗学と考古学。

古代中国、殷から周の時代に作られた青銅器には饕餮紋(とうてつもん)といわれる魔除けの紋が浮き彫りされている。饕餮(とうてつ)という魔物の顔だ。饕餮紋の施された鼎(かなえ)は日本の国立博物館にも展示されている。この鼎とミイラと象に乗った普賢菩薩像と長谷川等伯の松林図の前で、しばらく私は動かない。考古学の先生が自分のお気に入りを紹介しては、悦に入るのを眺めながら、私はレストランの椅子の居心地を楽しむ。考古学や民俗学に興味のある人は、時々本人も独特の個性を持っている濃い人がいらっしゃる。清水さんはそんな人だった。柳田国男さんが好きで日本の民俗学に造詣が深く熱く語る。いつも先生と話が熱い。先生「ぜひとも皆さんをエジプトにお連れしたいものです」清水「いいですねぇ先生は。経費で落とせますから、私は全て自腹だから家内にヘコヘコですよ」清水さんの一言に皆笑う。昭和40年は不景気で皆、台所が苦しい。しかしながらこの2カ月後、先生と同好会の全員で初めての海外旅行となるエジプトへと旅立った。清水さんから電話があったのは正月明けだった。清水さんは終始大笑いしていた。当選金額は言わなかった。清水さんありがとう。