500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

地球実験。

壱万本のタングステンの糸を等間隔で台座に接続した装置を、上空4000メートルから垂らすのは特殊なドローンだ。タングステンの糸の先にはジルコニウムの球体がそれぞれ取付けられている。今回の実験はニコラの実験を進化させたものだ。北極圏の磁場を利用した軍事兵器を実験しようとしている。快晴の北極圏上空では無人で作業は続けられる。磁場の変化は随時衛星に観測される。実験の計画者であるカーン氏はハワイ沖の船上でモニタリングしている。そして夜を待つ。やがてオーロラが現れ始めた。オーロラの出現範囲はアリューシャン列島にまで及んだ。兵器は静かに稼働を続けている。4000メートル下では氷海の地下からメタンハイドレートが急激に溶解し続け音を立て吹き上げている。カーン氏はメタンハイドレートの変化を知らずメタンガスの濃度は上昇し強風で流され白く筋を作りながら北極を囲む巨大な渦を作り出した。この状況を観測したのは宇宙ステーションの航海士だった。航海士は唯ならぬ事態をNASAに伝える。実験をしていたカーン氏に北極圏の事態が伝えられたのはそれから5分後だった。カーン氏は実験を中止し北極圏のメタンガスの渦はやがて消失した。