500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

師匠と弟子。

粘土質の山の土を桶に取り工房に持ち帰る。数日天日に晒した後、井戸端で井戸水を汲み桶の土にかけ、桶を満水にする。土は水を含み時間をかけて泥のようになる。かき混ぜては泥を沈殿させることを繰り返し、ゴミなどを泥から取り除いて使える土にする。工房にて土を練り始めるとだんだんと土に艶が出てくる。その後菊練りをする。師匠は作務衣姿で黙々と土を練り続けている。やがて粘土が出来上がる。この土地独特の土を使う陶芸作家である師匠は、寡黙な人物で通っている。兄弟子と私は陶芸教室で指導を受けたことがきっかけで今こうしている。師匠は自分のペースを乱されることを好まない為、私たちはじっと見ている。師匠の手が止まり顔を上げたところで「先生、お茶にしますか」と兄弟子が聞く。「そうだな」と師匠は頷き私たちは休憩を取る。揃って甘党である私たちは(それだから気が合うのか)だいたい羊羹をつまんでお茶を飲む。土の出来や天気の話ぐらいをぼつぼつとしてまた工房に戻る。3人で、各々ろくろを回し始めると日が暮れるまで、自作に没入する。窯入れから火入れ、窯出しまで連日泊まり込みになり、3人の心中は毎回、祭りのような血の騒ぐ出来事になる。