500文字の鵲ショートショート

毎日500文字のショートショートを記します。

雪の世界に。

明治に建てられた数寄屋造りの山田家は、今庭師が冬支度を進めている。何代にも渡って作られた庭園は見事な調和で四季を移ろわせ、県内でも有数の庭園として名を馳せていた。佐々木は庭師として父親と共に庭園の管理を任されている。その父親の引退する日は近い。山田家は代々名主としてこの地を治めてきた。今は祖母のタカと孫夫婦が暮らしている。孫のヤスコは産まれた時から跡取りだった。母親が病弱で早世したからだ。ヤスコには兄妹もいなかった。父親はヤスコをタカに預け、海外に隠匿している。タカとヤスコの間はとても微妙な力関係で成り立っている。婿であるシゲルに至ってはタカにもヤスコにもかなわない。山田家には女帝が二人いる。佐々木はシゲルの苦労をよく知っていたので二人は話が合った。北陸の冬は早い。日本海からの凍った風が狂気じみた雪をもたらし、平野は真っ白に埋まる。山田家の雪見窓からタカとヤスコが外を眺めている。「こんなに冷えるんじゃあ熱燗がいいかい」「シゲルさんを呼んでくるわ」とヤスコが立った。「今日はただ雪を愛でる日だ」タカは自慢の庭の美しさを静かに喜んでいる。シゲルとヤスコが炬燵に揃い、熱燗と乾き物が用意される。